tenp stories vol.01

イラストレーターの福田さんは、刺子織との出会いをこう語ります。
「初めて刺子織を見たのは5年くらい前だったと思います。盛岡にある光原社でその名前を聞いたんですが、第一印象としては“古いのか新しいのかわからないデザイン”だなということでした。その後、両国にあったin-kyoというショップで再び刺子織に出会い、店主の中川ちえさんに、手織りの刺子よりも安価に作れることや自分でも図柄をデザインできるのだということを教えてもらい、興味を持ったんです。なんというか、テクノのクラフトワークが当時最先端だった音楽を、今の時代にそのままの雰囲気で演奏するようなニューレトロなデザインを自分でもやってみたかった」(福田さん)


福田さんが大峽さんより説明を受けながら布の具合をチェック。何度聞いても、織り機の仕組みはなかなか難しいようでした。
古いか新しいかよくわからない。確かに刺子のデザインは、自在な線を使って絵を描くのとは異なり、目に沿ってデザインされるのでコンピュータが出始めの頃に流行ったドット絵のような、解像度が粗い柄となります。この刺子織が得意とするのは、同じパターンの繰り返し。先ほど解説しましたが、紋紙の枚数が少なく、同じ柄を繰り返すのであれば、そんなに大変な作業ではありません。ですが、福田さんは大峽さんに挑戦状とも言えるような複雑で大きな柄を提案したのです。大峽さんは、最初に福田さんのデザインが上がってきた時のことをこう語ります。

「いやあ、もう、なんて言うのかな。デザインが面白い!って思ったの。何の柄か分かんなくて質問したら、“森”だっていうから。いやあ普通の素人が考えることと違うなって思ったよ。はっはっは」(大峽さん)

なんとポジティブ。大峽さんは、いつもよりも倍以上の労力がかかる福田さんのデザインを「面白い!」のひと言で実現にこぎつけてくれたのです。結構な苦労がかかる作業をもろともしない大峽さんのおおらかさ。これは、tenpの布をつくる上で欠くことのできないポイントになったということも記しておきましょう。

「刺子織というのは、規則正しい線を使った幾何学模様がベースなので、その中でどうやって個性を出していくか。図案を考える時に難しかったところです。考える時には、幾何学とは真逆にある自然界のものを考えました。具体的なものではないのですが、森や花をイメージしていました」(福田さん)

幾何学模様の中に自然をあしらった今回の模様は、木のようにも花のようにも、じーっと見ていると妖精の姿が見えてくるなんてことも。見る人によってイメージするものが異なるのも面白いところです。また、ひとつの柄が約91cm×54cmと大きいので、ハンカチやコースターにする時には、裁断によってどこの柄が出てくるかわかりません。1枚1枚ちょっとずつ異なる柄を、ぜひ楽しんでください。そして、その複雑な柄の裏側には、大峽さんのような職人さんがいるのだということを知っていただけたらと思います。

次はどんな職人さんを訪ねるのでしょうか。お楽しみに。

(取材・文/上條桂子)

かみじょう・けいこ/1976年東京生まれ。
出版社を経てフリー。雑誌『ブルータス』や『エココロ』『デザインのひきだし』等で執筆。
書籍や展覧会図録の編集も手がける。ものづくりの現場や職人、クリエイターへの取材が多い。